第32章 【甘】独り占め願望/国見英
「それじゃあよろしくお願いします。」
「あ、はい。こちらこそよろしくお願いします。」
日曜日、我が家にやってきた国見君。彼は私の恋人でもなければ、親しい友人でもない。クラスが同じ。あ、あと中学校も同じだった。でもそれだけ。中学の時からもイケメンだと人気があり、高校生になってからも変わらず人気の国見君。そんな彼が何故、休日に我が家のそれも台所にいるのかというと、それはひと月前に遡る。
お菓子作りが趣味でよく手作りのお菓子を学校に持って行っていた。それを仲のいい友達とお弁当の後に食べていた時の事だった。机いっぱいに広がったマフィンは女四人じゃ食べきれない量で、食べるという行為が作業と化している時に、ふらりとやってきた国見君に友達の一人が声を掛けたのがキッカケだった。
「ねえ、国見甘いの好きだったよね?はい、これあげる。」
半ば無理矢理押し付けられたマフィンを怪訝そうに見つめる国見君。あ、そういえば国見君手作り苦手じゃなかったっけ?
国見君と私は北川第一出身で、中二の時同じクラスだった。バレンタインに手作りだと言って渡された物を、何が入ってるか分かんないからいらないと言って、学年一の美少女を泣かした事は私達の学年では有名な話だった。まあ、よく知りもしない人からの手作りって、確かに怖いよね。そんな事件を思い出し、国見君からマフィンを返してもらおうと手を伸ばした。
「これ、逢崎が作ったの?」
「え、あ、うん。沢山作りすぎちゃって持ってきたんだけど、国見君手作りのお菓子苦手だったよね?ごめんね。」
「いや、いい。食べる。」
そう言ってマフィンの包み紙を外し、そのままパクリとマフィンにかぶりついた国見君。
「…美味しい。」
まさか国見君からお褒めの言葉をいただけるとは思っておらず、その言葉は素直に嬉しかった。
それから国見君は私の作ったお菓子を食べに来るようになった。クッキー、マカロン、シュークリーム、ティラミス、アップルパイ、ブラウニー。
そして今回国見君が我が家を訪れるキッカケとなったのが、塩キャラメルブラウニー。なんでも、塩キャラメルが大好物らしい国見君は毎日でもそれが食べたいらしく作り方を教えて欲しいと頼まれ、冒頭に至る訳だ。