第30章 【甘】言葉の真意/岩泉一
岩泉さんの手伝いもあってあっという間に本の整理は終わり、カウンターへと戻り、破けたページの修復やラベル貼りを行ったが、先程の件が頭を過ぎり、どうも作業が進まない。岩泉さんに頭撫でられちゃった…!それに抱き止められちゃったし…!なんて頭の中で色々考えていたらあっという間に閉館時間。図書室に残った生徒達も閉館時間になり図書室を出て行った。図書室の鍵を締め、職員室に鍵を返しに行き、下足室に行くと、岩泉さんの姿を見つけた。誰か待ってるのかな?そう思っていると岩泉さんと目が合ったので、取り敢えず会釈をし、横を通り過ぎようとすると、岩泉さんに呼び止められた。
「送ってく。」
「え?いや、そんな悪いです!」
「外暗いし、女一人じゃ危ねえだろ。」
「いつも一人なので大丈夫です。」
図書委員会の当番の日にいつも一人で帰るのは慣れっこだ。
「俺がそうしてーんだ。ダメか?」
照れたようにそう言った岩泉さんのその表情に心撃ち抜かれ、ダメですなんて言えるわけもなく、お願いしますと頭を下げた。そして、岩泉さんと二人で帰る事になった訳だが、緊張して何を話したらいいか分からず、でも、沈黙も気まずいし、クラスでの話とか、特に面白みのない話を延々と続けていた。が、緊張のせいで、自分が何を喋ったかは一切覚えていない。
「逢崎はいつも委員会の当番月曜と木曜だろ?」
「え?なんで知ってるんですか?」
そういえば私はまだ名前すら名乗っていなかったのに、岩泉さんが私の名前を知っていた事、私が当番の日を知っていた事に驚いた。
「あー…その、なんだ。お前の事気になってたから金田一から聞いた。」
あ、そういえば金田一君バレー部だったな、なんて思ったが、私なんかがどうして気になるのかその疑問は解けないままだった。