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【WJ】短編

第30章 【甘】言葉の真意/岩泉一


「あ。」


 図書室にいる思いもよらない人物の姿に思わず声が漏れた。図書委員会の当番であった私は放課後図書室に来た訳だが、まさかそこに岩泉さんがいるとは思わず、つい声が漏れてしまった。


「よう。」
「こ、こんにちは。」


 私の顔を覚えていてくれたのか、挨拶をしてくれた岩泉さんに頭を下げた。


「珍しいですね。」
「まあ、受験生だからな、一応。部活も引退したし、これからは勉強しねえとな。」


 先日の春高予選を終え、三年生は引退。受験生である岩泉さんが勉強をしに図書室にやって来たのは考えてみればごくごく当たり前の事だ。春高に行けなかったことは残念だけど、こうして受験勉強をしに来る岩泉さんに図書室で会えるなら図書委員会で良かったな、なんて思ってしまう私は不謹慎だ。


「こないだ、試合見に来てくれてたな。」
「え?」


 あんな大人数の中、私が応援に行ってた事に気付いてくれていたとは思わなかった。ノートを運ぶのを手伝ってもらって以来、特に関わりがあった訳でもなかったから驚いた。


「ずっと、祈るようにして試合見てたから、なんか目がいった。」
「そんなに目立ってましたか?…すみません。」
「いや、わざわざ試合見に来てくれて嬉しかったよ。ありがとな。」


 準決勝で敗退となり悔しい思いもまだ残る中そんな言葉をかけてくれた岩泉さんのその言葉になんだか心が苦しくなった。


「私、初めて試合見たんですけど、凄かったです!あんな強いボール、私なんかが触ったら腕がもげちゃいそう!」


 もげるという発言が可笑しかったのか、岩泉さんは笑った。


「皆一生懸命ボールを追いかけて、あんな風にボールを打ち込めるなんて、ほんと凄い!なんか想像してたのと全然違うくて…!感動しました!」
「…負けちまったけどな。」
「でも、カッコ良かったです!岩泉さん、凄くカッコ良かったです!」


 思わず漏れた本音。言ってしまってから、恥ずかしい事を口走ってしまったと自分の発言を後悔したが、岩泉さんにお礼を言われ、やっぱり言って良かったと思ってしまった私は単純だ。


「あ、えっと、勉強の邪魔してすみません。それじゃあ、失礼します。」


 岩泉さんに頭を下げ、返却された本の整理をすべく、カウンターへと戻った。


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