第30章 【甘】言葉の真意/岩泉一
先生に渡されたクラス全員分のノートと次の授業で使う課題を抱え、教室まで歩く道のりはやたら長く感じた。ノートとはいえど、それが三十冊を超えると、流石に重たいし、低い身長のせいで視界は狭まる。足元は完全に見えない。角を曲がればもうすぐ教室というところで、ドンと体に走る衝撃に耐えられず、私は抱えていたノートをぶちまけ、それを散らばらせた。
「悪い!」
私にぶつかってきたであろうその人は私に謝罪の言葉を述べると、そのまま一目散に走って行ってしまった。前をちゃんと見てなかった私も悪いけど、拾うの手伝ってくれたっていいのに。そんな事を思いながら床に散らばってしまったそれらを拾っていると、誰かがそれを一緒になって集めてくれた。
「すみません、ありがとうございます。」
一緒になってノートを拾ってくれたのはバレー部の岩泉さんだった。岩泉さんと面識がある訳ではないけど、ここの生徒で岩泉さんを知らない人は多分いない。青城で一番人気のバレー部の主将である及川さんといつも一緒にいる岩泉さんも及川さん同様有名人だ。
「これ、どこまで持ってくんだ?」
「え?」
「こんなの一人で運ぶの大変だったろ?」
「いえ…大丈夫、です。」
拾うのを手伝ってもらっただけでも有難いっていうのに、それを運ぶのを手伝ってくれるという岩泉さん。初対面だって言うのに、優しくしてくれるなんて、噂通り優しい人なんだな、と思ったが、流石に申し訳なさ過ぎる。
「教室まででいいか?」
「え、あ、はい。」
反射的に返事をしてしまい、岩泉さんは私が抱えていた分のノートも一緒に持ってくれた。そして、そのまま教室へ戻ると、突然やってきた岩泉さんに、クラスメイトは喜んで駆け寄ってきた。駆け寄ってきたのはバレー部の子達だけでなく、体育祭で応援団を一緒にやった面々や、委員会が一緒だという子達。それを見て、岩泉さんの人望の厚さが伺えた。
「それじゃあ、俺も授業あるから行くわ。」
「あの、岩泉さん!ありがとうございました。」
「おう。」
そう言って笑ってくれた岩泉さんの表情に、私はそのままコロッと落ちてしまった。