第20章 【切甘】重なる鼓動/孤爪研磨
謝るって決心したは良かったが、今日に限って部活が長引いてしまって、時間がいつもより遅い事もあって、研磨の家に来たまではいいが、インターホンを鳴らす勇気がない。この一週間連絡も取ってなかったし。いきなりやって来て、また研磨に迷惑がられるかもしれない。…出直そう。
「遥香ちゃん?」
不意に名前を呼ばれ振り向けば、コンビニの袋を手に持った黒尾さん。
「えっと、こんばんは…。」
「こんばんは。入んないの?」
「え?」
黒尾さんはインターホンも鳴らさず、さも自分の家に上がるかのようにして扉を開けた。
「研磨に用事じゃないの?」
「そうですけど…。」
「アイツ今風呂入ってっから。いいよ、上がって。」
半ば強引に家の中に引き摺り込まれ、そのまま黒尾さんと一緒に研磨の部屋へ。黒尾さんは研磨の幼馴染みで、よく家に遊びに来るとは聞いてたけど、研磨と付き合ってから黒尾さんと鉢合わせる事なんて一回もなかったのに、何故このタイミングで。謝りに来たのに、研磨がお風呂から上がってきたって、黒尾さんも一緒にいちゃ謝りにくい。てか、まずこの空間が息苦しい。黒尾さんと二人で話した事もないし。
「研磨と喧嘩したんだって?」
「あ、はい…。」
「原因が何かは知らないけど、アイツ自分から謝ったりするような奴じゃないから。」
「…知ってます。」
研磨が謝る姿とか想像出来ないし。
「アイス食べる?」
「いや、大丈夫です。」
黒尾さんはコンビニの袋からカップアイスを取り出し、それを食べ始めた。
「研磨さ、目立つの嫌いなの知ってるよね?」
「はい。」
「なのに、アイツ髪、金髪じゃん。なんでか知ってる?」
「…音駒、髪明るい人多いから、染めた方が目立たないからじゃないですか?」
なんで黒尾さんが突然そんな話をし出したのか私は分からなかった。
「まーそれもあるけどさ。一番の理由は遥香ちゃんだよ。」
「私?」