第15章 【甘】弱虫の一歩/西谷夕
あげると言われたマフラーだけど、このままにしておく訳にもいかないし、返さなきゃなんて言い訳をつけ、出勤前と仕事帰りに彼を探す日々が続いた。烏野の制服着てたから烏野高校に行けば、彼は目立つ髪型だったし多分行けば会える。けど、そんな度胸私には無かった。自分でも、この容姿が目立つ事は理解してる。そしてそれが見掛け倒しな事も。若い子の中に堂々と一人で乗り込んで行く勇気なんて無い。知らない人と話すなんて絶対無理。だから、こうやって彼と出会った場所を彷徨いてるだけ。
「で、まだ会えてないわけ?」
「…うん。」
「もうさ、学校分かってんだから学校行けばいいじゃん。」
「無理無理無理!」
「ただいまー!」
「おじゃましまーす!」
龍君の元気な声が聞こえた。そしてもう一つ元気な声。友達かな?
「あ、夕の声じゃん。」
初めて耳にする名前。冴子ちゃんは玄関の方へ歩いて行った。龍君におかえりって言いたいし、そう思って冴子ちゃんの後をついて行った。
「冴子姐さんおじゃまします!」
「おう!上がってきな!」
「龍君、おかえり。」
龍君の後ろから、ひょこっと顔を出したお友達の姿を見て心臓が止まるかと思った。会いたくてたまらなかった彼だ。まさか龍君の友達だったなんて…!
「あ、こないだの!」
私が声を出すよりも先に彼が声をあげた。
「具合は大丈夫ですか?」
冴子ちゃんと龍君がえ?知り合い?と尋ねてくるが、突然の再会に声が出ない。私は慌てて冴子ちゃんの部屋に戻り鞄の中からあの日彼に借りたマフラーを持って再び玄関に戻った。
「こ、これ、ありがとうございました!」
よかったのに、なんて言って笑う彼の笑顔に胸がきゅんとなる。それを見て、冴子ちゃんは私の想い人が龍君の友達だと気付いたらしく、ニヤニヤとした笑顔を浮かべていた。
冴子ちゃんの計らいもあり、彼の名前を知ることが出来、また話しをする事も出来た。それから、ちょくちょく冴子ちゃんのウチに遊びに行くと、たまに夕君に会う事が出来たが、小心者の私は会って話しをするだけでいっぱいいっぱいだった。