第20章 The branched story2
しばらく、食堂の出口を眺めていたかと思ったら、ゆっくりと俺に向かって手を伸ばしてくる。
「…雅紀、だっこ…」
「うん…」
立ち上がって近づくと、ニノは自分から身体を少し起こした。
空いた座面に座ると、ニノは腿の上に上半身を載せてきた。
「ずいぶん、甘えっ子だな…」
「…久しぶりに、いいよね…?」
なぜだか、その声には懇願の響きがあって。
「…どした…?」
「ううん…」
俺の胸に凭れるようにすると、目を閉じた。
その背中を腕で支えると、体重が掛かった。
心地よい重み。
片手でブランケットを掛け直したら、もぞっとニノは俺の胸に顔を埋めた。
「…雅紀の匂い…」
「ん…?」
「好き…」
「そう…?俺もニノの匂い、好きだよ…」
ふわふわの猫っ毛な髪の毛に、鼻を埋めた。
くんくんしてたら、くすっとニノは笑った。
「……愛してるよ……」
ああ…さっきニノがみんなを見送りながら呟いた言葉…
これだったんだ…
「…俺も、愛してる…」
ぎゅっとニノを抱き寄せた。
「…ん…ねえ、雅紀ぃ…」
「準備できたよ~!飯!雅紀、運んで?」
食堂の入り口がガラッと音を立てて開いた。
智が、手にトレーを持って食器を運んでくる。
「おっ…いい匂いだなあ…ロールキャベツ?」
潤が、タオルを首に掛けて食堂を覗き込んだ。
「正解!潤、もう終わったんだ。手伝って!」
「おう。わかった…手、洗ってくるから…」
「いい匂いだなあ…今日は何?」
翔の声も聞こえた。
こっちは汗まみれで、頭にタオルを巻いてる。
「あ、翔も!手伝ってくれる?ニノが元気ないからさあ…」
3人がこちらを見る気配がした。
「…雅紀…?」
翔の呼びかけに、答えることができなかった
頬を流れる涙を止めることができなかった
「雅紀…?どうしたの…」
「おい…雅紀…?」
ずっしりと、重くなったニノの身体を
いつまでも手放すことができなかった
微笑んだまま
俺の腕で息絶えてしまったニノを
”ここは、天国だねぇ…”