第15章 The beginning of the story5
あれから一年が過ぎた。
小学校跡地を拠点とするグループに潜入することに成功してから、俺は頻繁にB地区に出入りするようになっていた。
「櫻井」
「はい」
「今週末、またB地区か?」
「はい。その予定です」
「最近、頻繁だな…」
「そうですか…?」
俺はスエードという名称の付けられた、政府の諜報機関の一員だ。
「潜入は、よっぽど上手く行ってるようだな…」
「はい…」
「精々頼むよ…俺は次の移動で、表に帰るんだから」
上司は皮肉に笑うと、俺の席から離れていった。
「…糞野郎…」
”表”とは、内閣官房庁のことだ。
スエードの上部機関になる。
上の連中にとっては、ここは通過地点。
一生をここで過ごす一部員の俺とは、違うって言いたいんだろう。
熊本の病院に捨てられていた俺は、地元の孤児院で育った。
白のおくるみに包まれた俺は身元が一切わからなかった。
ただ、紙切れが一枚。
”この子の名前は翔といいます”
親の残したものは、それだけ。
中学高校と幸いに勉強だけはできたから、教師から上の学校に行くことを勧められた。
しかしそのどれもが奨学金などの借金を背負うことになるため、俺が選んだのは第一東京州の所沢市にある、防衛医科大学校だった。