第14章 The beginning of the story4
寝袋から這い出てきた智が俺の後ろから小窓を見て呟く。
「…ま、油断はできねえ。雨でも好き好んで狩りに出てくる奴がいるかもしれないし」
「そうだね…」
雅紀と翔はまだ寝袋から出てこないから眠っているんだろう。
「…潤…」
「ん…?」
「昨日…どうしちゃったの…?」
「…ああ…」
結局、俺はあの質問に答えることはできなかった。
おまえの名前を知っていたんじゃない
翔子は…俺の嫁の名前で、おまえとそっくりな顔で…
そんなことも説明できないほど、俺は混乱していた。
「…言いたくない…?」
ちくりと胸が痛む。
じわりじわりとあの頃の荒れた心が戻ってくるようで、必死に抑えてる。
智と雅紀には、全て話したわけじゃない。
話せるほど、まだ俺の中で整理が付いていないし、消化もできていない。
蓋をかぶせて、傷ついたところは血を流したまま…
見ないようにしてきた。
外からの光が、智の顔をぼんやりと部屋の中に浮き上がらせている。
小窓を閉めると、部屋が真っ暗になる。
そのまま、智を引き寄せた。
「潤…」
「ごめん…まだ…」
「ううん。いいんだよ。言いたくなったら、いつでも聞くからさ…」
「…ありがとう…智…」
ぎゅっと、お日様の匂いのする智の体を抱きしめた。