第5章 深遠の記憶
「そのおじさんは、ニノの言う”快楽の追求”をしてたんだと思うよ…俺にはわからないがね、そんな野郎の気持ちなんか」
「なんで…そんなことするんだろう…」
「さあ…人間ってのは、綺麗な物を汚したがる生き物だし、いけないと思うことをやると、逆に興奮する生き物だし…言葉じゃ説明できないこと、たくさんやるんだよ…」
「そうなの…?なんで…?」
「わからねえ…でも、それが人間なんだと思う。だから…こんなB地区みたいな所作ったり、ニノを作ったりするんじゃねえか…?」
僕にはよくわからなかった。
でも、説明が付かないもの、それが人間なんだってことはなんとなくわかった。
「じゅん…ありがとう。たくさん教えてくれて」
じゅんはにっこり笑うと、僕の肩に腕を回した。
「いいよ…うまく説明できなくてごめんな」
「ううん。また教えてね」
「わかった」
なぜだかわからないけど…
じゅんにだきつきたくなった。
ぎゅっと抱きつくと、じゅんはびっくりしたようだった。
「どうした…」
でも声は嬉しそうで、ぎゅっと僕を抱きしめてくれた。
「ニノは甘えん坊なんだな…」
その時、遠くで音が聞こえた。
「なに…?」
「やばいっ…ニノっ走れっ…」
突然じゅんが僕の手を引いて走りだした。
でも僕は足が縺れて上手く走れない。
じゅんは僕を小脇に抱えて走りだした。
「じゅん!?」
「舌噛むから黙ってろ!」
そのまま校舎に駆け戻った。
玄関を入ると、上の方にある扉を開けた。
スイッチみたいなものをバツンと上げた。
瞬間、世界は真っ暗闇になった。
【深遠の記憶 END】