第33章 雪の魔法
正面玄関を出ると、黒塗りの車が静かに近づく。
運転席から降りてきた男性が赤司に頭を下げると後部座席の扉を開ける。
「さぁ、乗ってくれ」
赤司に促されるが、桜は緑間を見上げる。
「言い忘れたが、赤司は日本有数の名家の御曹司なのだよ」
左手で眼鏡を押し上げ、平然と答える緑間。
桜は思わず、赤司をじっと見つめる。
「やめてくれ緑間。相原さんが身構えてしまうだろ」
「本当のことだろう」
照れくさそうに笑う赤司を、ちらりと睨みつける緑間。
「相原さん、気にしないでくれ。俺は君との静かな暮らしを約束するよ」
赤司の言葉に、思わず鼓動を跳ね上げ頬を染める桜。
「残念だが、話はここまでだ。目的の場所まで少し離れているからね」
「お前の一言が余計なのだよ」
緑間が吐き捨てると、三人は車に乗り込む。
男性が扉を閉め運転席に座ると、ゆっくりと車が動き出した。