第32章 雪をも解かす真冬の華よ、いつか僕に手折らせて
その日の夜、桜は赤司に連れられ会場近くのホテルにいた。
高校生らしからぬ上層階の広い一室に、別の意味でも緊張していた。
「生憎、満室らしくてね。ベッドルームは二つあるから問題ないだろう」
赤司にそう言われるが、桜は入り口の扉の前から動かなかった。
そんな桜を見て薄く笑う赤司。
「そんなところにいたら冷えるだろう?外も寒かったからね」
赤司は桜の手を取るとソファーに座らせる。
「桜は頑なだな…」
ソファーの背もたれに手をつき、桜の顔を覗き込む赤司。
突然のことに体を強張らせる桜。
「あれ以来、真太郎と一緒の時の表情は一切見せていない」
見開く赤司の瞳から、目が逸らせなくなる。