第32章 雪をも解かす真冬の華よ、いつか僕に手折らせて
「真太郎、そのハサミ借りてもいいかな」
「何に使うのだよ」
「髪がちょっとうっとおしくてね、少し切りたいと思ってたんだ」
赤司は緑間からハサミを受け取ると、火神に近づく。
「その前に、火神君…だよね」
そう言うと赤司は、火神めがけてハサミを突き出す。
とっさに避けるも、頬には薄っすらと血が滲む。
「へぇ…よく避けたね。今の身のこなしに免じて、今回は許すよ。だが、次は無い」
悪びれもせず、淡々と話す赤司。
「僕が帰れと言ったら帰れ」
言いながら手にしたハサミで前髪を切り始める赤司。
「この世は勝利がすべてだ。勝者はすべてが肯定され、敗者はすべて否定される」
赤司の行動を、驚きつつも凝視する火神。
「僕は今まであらゆることで負けたことがないし、この先もない」
赤司の足元に、切られた髪がはらりと落ちる。