第30章 最初の思い出~黒子~
今から約半年前のこと…
誠凜高校入学式。
桜が舞う穏やかな日、黒子は小説を片手に校庭を歩いていた。
辺りは部活の勧誘で賑わっている。
そんな中をすり抜けるように歩を進める黒子だが、誰の目にも留まらない。
まるで、存在していないかのように…。
突然、背後に軽い衝撃を感じ振り返ると、一人の女の子が目に入った。
「ごめんなさい。大丈夫でしたか?」
謝る女の子に、黒子は少し驚いた様子でじっと見つめた。
今までに会った人とは明らかに違う反応をした人物。
「あの…」
自分を見つめる黒子に、小首を傾げて問いかける女の子。
「…大丈夫です。そちらこそ、大丈夫ですか?」
「はい」
逆に女の子を気にかけると、薄く笑う黒子。
「じゃあ、失礼します」
そう言うと女の子はその場から立ち去った。