第1章 文化祭
後片付けも終わり、部員たちも解散して舞台袖には数人残っているだけだった。
桜も着替え終わっていたが、袖から出て行くのをためらっていた。
理由は1つ。舞台上から緑間に熱いラブコールを送ってしまったからだ。
役になりきっていたとは言え、我に返れば恥ずかしくなってくる。
恐る恐る袖から顔を覗かせると、桜が出てくるのを待っている緑間の姿があった。
「あれ?高尾君と黄瀬君は?」
2人の姿が見えないと思い探していると、桜に気づいた緑間が近づいてきた。
「わ!緑間君に見つかっちゃった・・・どうしようー恥ずかしいよぉ」
袖に引っ込み、赤くなった顔を両手で覆った。
すると、舞台の下にいるであろう緑間の声が聞こえてきた。
「姫、どうか私に姿をお見せください」
桜は驚いて、袖から顔を覗かせた。
そこには、桜に向かって手を伸ばしている緑間の姿があった。
そう。これは舞台でのワンシーン。
からかっているのかと思いながらも、桜は袖から姿を現し、緑間にそっと手を伸ばした。
「王子・・・様・・・?」
その瞬間、緑間は桜の腕を掴み、強く引っ張った。
「わっ!」
舞台から落ちる、と思った桜は固く目をつむった。