第5章 君に愛ある手料理を
「ない、本当にない」
今日も一日いつもと同じように、にゃーちゃんのライブに馳せ参じた。ライブの余韻に浸ってウキウキ気分で帰っていた矢先だ。
道路に人が倒れてた。
うん、そうだよね。
普通に考えてそれはおかしいし、変だよね。
わかってる、わかってるんだけど...。
目の真ん前に倒れてる人は、あきらかに女の子。
女子高生、女子中学生?
よくはわからないけど、セーラー服の赤いリボンの端っこが倒れてる隙間からでてる。
とりあえずここはどんなに慌てていても落ち着く事。
高校時代、人が倒れていたらこうするんだって言ってた体育の授業を懸命に思い出す。
そしたらパートナーで悪ふざけしてた長男ばっかり出てきて、あの頃からどうしようもなかったなんて....うわ、嫌な事思い出した。
じゃない!
馬鹿な長男の事はいったん置いておくとして、さてどうしたもんか。しゃがみこんで、とりあえず肩を叩いた。いつもの僕なら多分女の子に触れるとかできっこないけど、人が倒れてんのに童貞をこじらせている場合ではない。
「だ、大丈夫ですか?」
倒れてんだから大丈夫なわけない。
「えと、返事できます?」
「.....」
返ってこない返答、ただほんの少しピクリと動く指先。
「もしもーし、ダメっぽいな、救急車よばなく...」
ぐるおおおぉぉ!!!
っと盛大に鳴るお腹の音。
ぽかんとする僕、そしてその音と共に物凄い速さでその子は起き上がった。
よく見れば可愛らしい顔をしたその子は、真っ赤な顔して僕を見る。右往左往に泳ぐ目、僕はというとあまりの出来事にぼーぜん。
なにこの子、お腹減って倒れてたの!?
いやいやいや、どんだけ腹減ってんの!?
今戦後だよ!?
平成だよね?!
なに?タイムスリップでもした!?
「あっ...えーと、帰ります」
よいしょと起き上がろうとするその子は、立ち上がった瞬間にふらあっとよろけた。
「危ない!」
急いで立ち上がり、僕はその子を支える。