第4章 君が乞われてしまう前に
「一松にーさぁぁあん!!」
後ろから飛びついて来るオレの弟。
名前は、松野十四松。
天真爛漫で、優しくて、馬鹿ででもそんな所が魅力的で、オレにない陽の気を沢山詰め合わせてできたみたいなそんな奴。
オレの隣に一番近い可愛い、弟。
「...痛い」
「あっ!ごめんね!一松にーさん!野球!野球しよ!」
屈託の無い笑顔、本当に同じ兄弟とは思えない。
あぁ、オレ?
燃えないゴミって書いて松野一松。
クズの中のクズ、この松野家の中でもゴミカス以下の存在ですけどなにか?
「野球ー!!!」
そう言って暴れ出す十四松をオレはなだめようとする。まぁ、いつものパターンだよね。
「もう!十四松くん!家の中でそんなに暴れちゃいけません!」
スターンと襖が開いて、赤みがかった茶色が揺れる。
「透ちゃん!」
パアァっと花でも咲いたみたいに、十四松はその人に駆け寄っていく。まるで飼い主見つけた子犬みたいな?
そう、そんな感じ...。
「ほら、おやつ!3人で食べよ?」
「うん!」
「その前にちゃんと手を洗って来る事ー!」
「はーい!!」
にこっと笑いながら十四松にそう言ったこの女は、紛うことなき十四松の彼女。
え?親の間違い?
そうかもね、完全にそう見えるよね。
でも何をどう間違ったのか、彼女なんだよね。
オレ達無職童貞でもちゃーんと彼女なんて架空上の物できるもんなんだって、何回思ったかわかんない。
ダダダダっと勢いよく廊下を走る音と同じくして、オレの隣に座る彼女さん。
「これ、一松くんの分ね」
コトンとおかれたケーキは多分母さんの用意したもんじゃない。