第10章 それでも貴方が好きでした
ぼうっと目の前で真っ赤な炎が揺らめいた。
酸素を焼いて、熱風となったそれが私の顔を刺激する。
ハッとして慌ててコンロの火を消すが、時すでに遅しでフライパンの中にあるまっ黒こげのハンバーグ。
ここまでなるのによく気づかなかったものだと、自分を笑いたくなる。
まだ深く心の中に残っているその気持ちを一瞬でも呼び寄せれば、意識が混濁としてしまう。
「なにかあった?」
後ろで声がして振り向く、ああ違うよなんでもない。
そんな事をいいながら私はまた料理を作る。
すると今度は指を包丁で切ってしまう。
赤い血が指先から溢れだしてきて、線がひかれていき所々に赤い玉ができた。
本当に今日はおかしい。
どうして十四松くんを思い出しているんだろう、あれはもう何年か前の事だ。
そういえば、私は貴方を嫌いと言った後でどうなってしまったんだっけ?
そんな事を考えていたら、ズキリと頭が痛んだ。
なんだろう、なにか思い出したくないような気がし
て。
こんな事が数回あったけれど、結局は思い出せずじまいで。無理に思い出したら辛くなるような気がするからずっと思い出さないようにしている。
「大丈夫?すごい血が出てる、早く止血しないと」
パタパタと走っていく彼は、急いで救急箱を取りに行ってくれたんだろう。
とても嬉しいはずなのに、何故か背中に氷でも入れられたみたいにゾクゾクと冷えていく。
ちょっと血を流しすぎたんだろうか?
なんて思っていたら、ふと感じる視線。
振り向けば貴方はいないはずなのに、それなのに貴方が近くにいるような気がする。
それがもう何年も続いていて、肩が重い。
「止血するよ、指出して」
彼の声が近くできこえる、そおっとティッシュで止血しようとした瞬間。
バチッと音がして、イタッと声がした。
「静電気みたいなのきた、痛かったァ」
「ごめんなさい、自分でやるから大丈夫だよ」
私はそう言って笑った。