第5章 歪みに飲まれる愛

いつもの軽い及川さんとは
口調も顔付きも違う
真面目で真っ直ぐな空気に
胸がギュッと締め付けられる様な
それでいて不謹慎ながら
少しだけドクンと跳ねる様な
変な感じを覚える

それは

「本当はね
俺が振られる事で
向こうの傷を少しでも
浅くって思ってたんだけどね
それは実の所
自分の為だったんだ
あの子を…ナナを
深く傷付けたくないって
思いながら
本当は人を傷付けた自分って
重さから逃げてただけだった
ナナの為とか言いながら
自分の為に相手から
別れを切り出して貰おうとしたんだ」

及川さんが話を進めると
更に強く濃く
私の身体に絡みつき

『…それで…彼女は？』

もっと深く知りたくなって来る
この人の
及川さんの心の中を。

「…俺から振ってくれって言われたよ
それで最後は"アリガトウ"だって
傷付けたのに…さ」

少し潤んだ目の端が

「…逃げるよりキツかったけど
逃げてちゃダメだって
教えて貰ったんだ」

キラキラと光ってる。