白昼夢第4幕【月桃模様ーさんにんもようー】黒尾✖及川 ®18
第4章 消せない昔、消えない今(後)
思わず出た大きな声
一瞬悲しそうに歪んだ顔に
怯まなきゃ良かった
そのまま置き去りにするくらい
冷たく出来たら
「本当に…キミは優しいね
俺の小さな表情の変化にさえ
揺れてくれるなんて、さ」
『…そんなんじゃ…』
「姫凪ちゃんの嘘つき
顔真っ赤だし」
『止めて…離し…っきゃあ!』
「凄いドキドキしてるじゃん」
こんな事にならなかったのに。
腕が引かれ引き止められた
私の身体は及川さんの胸に
倒れ込んで
そのまま強く抱き締められる
ピタリとくっついた身体から
伝わるのは跳ねる心臓の音だけじゃなくて
「身体熱いね
熱があるのかな?
それとも…火照ってる?
クロちゃんだけだって
言ってたのに…やっぱり
ウソツキ…だね、キミは」
私の上がり続ける体温も
混乱してブレ続ける気持ちも
全部全部
見透かされてるみたいで
ジタバタする力さえ奪われて行く
騒いで暴れて
意地でもこの身体を離さないと
そう思うのに
「姫凪ちゃん…」
この声が私の身体を重くする