白昼夢第4幕【月桃模様ーさんにんもようー】黒尾✖及川 ®18
第3章 消せない昔、消えない今(前)
同じ匂いがまた近くなったけど
落ち着く香りなはずだけど
『…眠れない…』
涙は頬を濡らして
胸は激しく私を責め立てて
夢じゃないと知らしめるかの様に
疼き続けた
痛みは朝も消えなくて
及川さんに優しくされる度に
カサブタを剥がされた様に
ヒリヒリして
まだ少し跳ねる心臓を
戒めてくる
___姫凪…?
この声が
「おい、姫凪??
お前大丈夫か?
震えてるぞ?
風邪か…まさか昨日ヤリ過ぎたか?」
この愛が
『…ばか、平気だってば
ほら、戻して?遅刻しちゃう…』
私の首を締めてるみたいに
息を出来なくさせる
私に覆い被さったまま
先に進もうとはせず
私の顔を心配そうに見下ろす鉄朗から
目を逸らして身体を押し返し
『お仕事頑張ったら
ご褒美にイッパイ…シようね!
それまでは私も我慢するっ』
身体を起こしてなるべく明るく笑って見せた
視線が合わない事を隠すように
細めた目は鉄朗を映さないまま
車のドアを開いて外に出た