第34章 カラ松とハッピーエンド
「とてもよくお似合いですよ、お客様!」
「は、はぁ…どうも…」
試着室で、鏡に映る自分を眺めながら、ひきつった笑みを浮かべる。
一体全体、どうしてこんな状況に陥ってしまったのだろうか。
…それは、僅か一時間ほど前に遡る。
街中でデートを楽しんでいた私とカラ松が、妙なキャッチセールスに捕まったのがそもそもの始まりだった。
「そこのお二人さん!いやー、美男美女カップルですねぇ〜。実にお似合いです!うんうん!」
若い男性はそう早口にまくし立てながら、私たちに近付いてくる。私はあからさまに怪しげな視線を向けたのだけど、¨美男美女¨のワードに惹かれたのか、カラ松だけがものの見事に釣られてしまった。
「フッ…さすが、分かっているじゃないか。そう、俺たちは結ばれるべくして結ばれた、これぞまさしくデスティニー!」
「そうです、運命です!」
「…あなたたち、バカなの?行くわよカラ松」「え?あ、ああ、しかし…」
初対面だというのに悪ノリし出した彼らについていけず、私はカラ松の腕を引っ張ってその場を離れようとした。
しかしそこで簡単には逃がしてくれないのがお約束。
「まぁまぁ彼女さん、待ってください!せめてお話だけでも聞いていかれませんか?」
「壺は買わないわよ」
「違います違います、壺じゃなくて!お二人、ご結婚の予定は?」
「「…結婚?」」
今思えば、この時耳を貸してしまった時点で、私たちの敗北は喫していたのかもしれない…。