第29章 溺れる心【おそ松】※
午後11時をとうに過ぎ、私はようやく帰路につく。
今日は夕方からのシフトだった。いつもより若干忙しかったため、疲れが半端ない。
大体夜中に帰る日は、家で作るのが面倒なこともあって、どこかの飲食店に入って夕食を取るんだけど…
お金、あんまりないしなぁ。今月の給料が入るまでは節約三昧だし、大人しく帰ろう。
財布の中身を見てため息をつく。元はと言えばバズーカの…と、その話はもう忘れるとして。
けど…お腹減った…
昼間から何も食べてない空きっ腹を擦りながら、自宅に向かってひたすら歩を進める。
早く帰ってカップ麺でも…あら?
前方に何やら灯りが見える。ぼんやりとしたそれは、提灯のようだった。
もしかして屋台?この辺りに来てるなんて珍しいわね。
近付くにつれて、おいしそうな匂いが漂ってくる。多分おでんかな?チビ太のかも。くぅ、よりによってこんな時になんという飯テロ攻撃…!
やがて屋台の全貌が見えてきた。予想通り、暖簾には¨おでん¨の文字。お客らしき人物が1人、席に座っていた。
…ん?あの赤いパーカーは、もしかして。
半分はおでんのいい匂いにつられつつ、気になったのでさらに近付いてみる。
どうやら眠ってるみたいだけど、その後ろ姿はどう見てもおそ松だった。
ま、まさかこんな時間に偶然会うなんて。ビール瓶が散乱してるし、けっこう飲んでるみたいね。
屋台の店主はやはりチビ太で、おそ松と同様に眠りこけている。
こ、この状況、放っておいていいのかしら?
…一応、起こすだけ起こしておこう。最近肌寒いから、風邪でも引きかねないわ。
私は暖簾をくぐり、おそ松の肩を軽く揺さぶってみた。
「おそ松、おそ松」
「……ん〜……」
「おそ松ってば」
「……zzZ」
ま、全く起きない…!
仕方ない、それならチビ太を起こそう。
「チビ太、起きて。店主が寝たら食い逃げされるわよ」
「…うーん…バーロー、もうちくわぶは…そう、こんにゃくがいい…むにゃむにゃ…」
夢にまでおでんが出てきてる!?こっちも全然起きそうにないし!