第16章 両片想い【一松】※
道中は何をされるでもなく、会話らしい会話もないまま、無事(?)アパートに到着した。
ほっと胸を撫で下ろす。考えすぎだったみたいね。
「ありがとう、一松。それじゃあ」
「ん」
アパートの入り口で繋いでいた手を離し、軽くお礼を述べてから踵を返す。
階段を上り、部屋の前に着いたところで、
違和感に気付き、振り返った。
「…ちょっと。なんでここまで付いてくるのよ?」
「え、駄目?」
「駄目とかそういう問題じゃなくて。帰らないの?」
「…帰る?なんで?」
ゾクッ…
彼の纏う空気が、明らかに変わった瞬間。
ダンッ「きゃあ…っ!」
ドアに背中を押し付けられ、両手を頭上に拘束される。空いている手で、彼はマスクを下ろした。
「あんたってさ…ホンット、つくづくバカだよね」
嘲笑うかのように、彼が言う。
「ば、バカって、何よ…!」
「バカはバカだよ。ここまで来ておいて、俺から逃げられるとでも思ってんの?…ヒヒッ、できるわけないじゃん」
暗がりのはずなのに、彼の顔がよく見える。私を見つめるその瞳が、怪しい光を放ったように見えた。
…怖い。
逃げ出したい。
でも彼の言う通り、逃げ出すのは不可能だ。
むしろ、無駄な足掻きをすればするほど恐ろしい目に遭う…そんな気がして。
「ねぇ、。泊めてよ。断ったらどうなるか…分かるよなぁ?」
ペロリ、と舌なめずりをして私を見下ろしてくる彼。
こ、このままじゃきっと…食べられちゃう…!
「と…泊まるだけよ。何もしないって約束して」
「それはあんた次第。カミサマにでも祈っておきなよ」
「な…!」
「いいからさっさと鍵開けて、中に入れてくんない?…俺にドアぶち壊されたくなかったらさ」
「〜〜っ…!」
私は観念して、カバンから鍵を取り出し、ドアを開ける。素早く入って素早く閉めてやろうかと思ったけど、失敗したら後が怖いので大人しく一松を中に案内した。
立場逆転しすぎよ、全く…昔の彼の方がマシだったわ…
「…ククッ」
「…え?」
背後から笑い声が聞こえ、恐る恐る振り返る。
「やっぱり…天性の大バカ者だよ、あんたって。
…男を家に上げるなんて自殺行為じゃん」