第34章 33 Melody.〜天side〜
「っ……天っ……」
(……しまった泣かせた)
「外でその呼び名はやめてって何度言––––」
「ありがとうっ……」
と言って……が思いきり抱きついてきた。
反動で宙に浮いたボクの両腕は行き場を無くし、その場で固まる。
人目や立場、九条さんの夢を優先して彼女を押し返すか……
嬉し涙を流す愛しい彼女の身体に腕を回すか……
〝さぁ、お前はどっちを選ぶ?〟
また……あの壁の声がする。
ボクを試すように選択肢を投げつけてくる。
(っ……)
正直2つを天秤にかけるなんて出来ない。
どちらも自分にとっては大切なもの。
だからずっと……1人で苦しんでたんだ。
やっとと再会できて、想いを通わせて……何もかも一つに重ね合わせたのに、プロとしての自分が冷静に呼びかけてきた事で、ボクは彼女と距離を置いてしまった。
それが辛くて……毎晩のように拳を握ってた。
(ボクは……)
……だったら両方守ればいい。
が側にいるいないでは、苦しいにも意味が違う。
だからTRIGGERの九条天も、を想う九条天も……両方守ればいいんだ。
……けどボクに出来るだろうか。
この先、上手くやっていけるだろうか。
(……ボクを誰だと思ってるの)
答えは直ぐに出る。
このボクが上手くやれないなんて事はありえない。
ファンも九条さんも楽も龍もも……ボクなら大切に出来る。
でも……
「……こんな所で抱きつかないで」
「あ……ご、ごめんなさいっ……」
ここでは腕を回せない。
キミの温もりを感じられない。
どうしてなのかは、ならわかってくれるでしょう?
だから来て。
ボクと一緒に来て。
「……行くよ」
「えっ……ど、どこに……?」
「……わかるでしょう」
「っ……」
放置した分––––
「……ボクの家」
キミを愛させて……。
◆33 Melody.END◆