第20章 19 Melody.
「……」
「……」
(何も喋ってくれない……)
あの後直ぐ身体を離した天。
「帰るよ」という一言を最後に、車の中でも一切口を開かなくなった。
全ては自分のせいだってわかってるけどとても寂しい。
好きだとお互い伝えあったのに……この沈黙が天との距離を感じさせる。
(嬉しかった……天に抱きしめられて好きだよって言われて嬉しかった……なのにっ……)
情けなく震えている自分の両手。
天となら大丈夫だと思ってたのに……今見ている手が「そんな事ない」って言ってる。
大好きな天を「怖い」と言ってる。
触れられても抱きしめられてもキスしても……そしていつかはその先も……彼となら大丈夫だと思ってた自分が甘かった……。
「っ……」
「……着いたよ」
「え……」
(ほんとだ……寮……)
行きは長く感じたのに、どうして帰りはこんなに早く感じるんだろう。
まだ着いてないと思いたいけど……小鳥遊事務所の寮が窓の外にちゃんとある。
微妙な雰囲気のまま別れたくない。
だからといって空気を変えられるほどの覚悟はまだ出来てない。
もう降りるしか選択肢はないのに……自分自身と戦っててなかなかドアを開けられない。
(どうしたらっ……)
「……降りなよ」
(それしかないってわかってるよ、でもっ……)
「天、私っ……」
「バッグ持って」
「っ……」
(早く帰れって事かな……だよね……)
「……じゃあね」