第5章 雨催い
「早速手入れをしたいんだが、いいか?」
尋ねれば、前田はやはり緊張した面持ちで頷いた。
「よろしくお願いします」
声は固く、刀を差し出す手は震えている。どの刀も、この瞬間が一番緊張するのだと、言葉で、態度で伝えていた。それが、今までどんな扱いを受けていたのかを物語っている。
「借りるね」
霊力を込め、流し込む。今回は手入れ部屋で行っているので、負担も少ない。手伝い札を手に取り、手入れ部屋にいる式神に渡せばあっと言う間に刀は修復した。
「はい、終わり。確認してくれ」
刀を返せば、前田は自身の刀身を見つめたあと、ほっと安堵した表情を見せる。
「ありがとうございます。なんだか、体が軽くなりました」
「どういたしまして。それならよかった」
さて、これで手入れは終わりだ。もう少しで出陣していた部隊が帰ってくるはずである。出迎えるために立ち上がると、前田から引き留める声がかかった。
「あ、あの…っ!」
「なんだ?」
どこか迷ったような、それでも何かを伝えたいのだと意志を含んだ瞳。一度視線を外し息をゆっくりと整えた前田は、視線を俺に戻すと今度は決意を讃えた瞳で射抜いた。
「聞いてほしいことが、あるんです」