第4章 玉蜻
そんなある日、歌仙から手当てをして欲しいとお願いされた。順に御手杵、骨喰、加州だった。どれも重傷の刀だ。
「御手杵は、顕現されてからすぐ、練度の合わない戦場に単騎で放り込まれたんだ」
「…それは、誰に?」
「二代目さ。本丸に帰ってこれたのは奇跡だった」
「…………」
その日のことを思い浮かべているのか、歌仙の瞳は痛みを耐えるように歪んでいる。彼が戦場に単騎で出されたと聞いたとき、彼はどんな心持で帰りを待っていたのだろうか。
「本丸に着いた彼を出迎えたのは僕だった。……僕たちは勝手に出陣することができない。だから、彼を戦場に迎えに行くことはできなかった」
歌仙は続ける。
「本丸に着いた彼が言った言葉を、今でも覚えているんだ」
聞くのが恐ろしい気がして、けれど避けることもできなかった。きっと、歌仙は誰かに聞いてほしいのだろう。
「何て?」
続きを促した俺に、歌仙は傷みを孕んだ顔でほほ笑んだ。
「『無能ですまない』って」
ぐっ、と心臓を掴まれたようだった。
「彼が無能なわけなんてないんだ。槍は強い。練度の合った戦場で、部隊をきちんと組めば、彼にそんなことは言わせなかった。…思わせなかった」
歌仙の瞳に後悔がありありと浮かぶ。歌仙のせいではない。それは確かだ。けれど、そんな言葉では納得しないことも分かっていた。
「それから今日まで、彼は気を失ったままだ」