第4章 玉蜻
「信じられない」
鶴丸は俺から手を離し、項垂れて言った。
「俺は、もう、人間を信じることができない」
声には憎しみが籠っていた。その姿に胸が痛む。この刀が、こうなる何かがあった。すべての出来事には、要因があり、原因がある。
「それでも、俺にはお前の力が必要だよ。…………頼みがあるんだ」
「俺が君の頼みを聞くとでも?」
「ああ、聞くよ。鶴丸は聞く」
それは、今、こうして言葉を交わし確信した。かれは人間を憎んでいる。そしてそれを清く正しいことだと思っている。けれど、それは仲間を思うが故の気持ちだろうことは、彼の言葉の端々から感じた。
「俺のことは嫌いだろうけど、仲間のことは捨てられないから」
「………人質をとるつもりか」
「うーーん、そうとられても仕方ないかも。戦場に出たがっている刀がいるんだ。練度はばらばら」
項垂れた彼の顔を、下から覗き込めば直ぐに逸らされた。
「なぜ俺なんだ」
「なぜ…、三日月が鶴丸を指名したからかなぁ。後、今話してて確信したよ。鶴丸なら、彼らをちゃんと、無事に、本丸に連れ帰ってくれるだろ?」
「……………」
沈黙は肯定である。
「それに、手入れのための資源が欲しいんだ。底をつくことはないけど、備えておいて損はないからさ」
頭の中に資源の残り数を思い浮かべながら言う。備えあれば憂いなし、だ。
長い沈黙を挟み、鶴丸は殺気をしまった。
「………はぁ、興ざめだ。のいてくれ」
そして、大きなため息を吐いたあと、俺を払いのけ部屋へ戻っていった。