第4章 玉蜻
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あれから数日、歌仙は宣言通り小夜左文字を連れてきた。
「少しいいかい?」
「ああ」
緊張した二人の顔つきに、俺にまで緊張が移る。律儀だなぁと思う。同時に情が深いんだろうなぁとも。
傷つきやすくて、でも、揺るぎない意志と優しさをもっている強い刀。それが、歌仙兼定という刀だった。
「小夜、」
いつもより幾何か硬い声で、歌仙が促す。小夜は歌仙の後ろから少しだけ顔を出して、俺の方をじっと見つめてきた。
小夜と会うのは、あの夜以来だ。
「…………」
沈黙。歌仙の袴を握る手の小ささに、分家にいる子ども達を思い出す。
「ほら、小夜。約束しただろう」
もう一度歌仙が促した。俺はただじっと待つ。
「……謝りたくない」
長い沈黙の後、聞こえたのは小さな声だった。
小さな小さな声で、けれどはっきりと、小夜は言った。
「小夜!」
歌仙が咎めると、小夜はそれでも尚、俺を睨むという丹力を見せぴゃっと逃げていった。
「あー、もうっ」
「いい、いいって」
「きみのためじゃない。小夜が心配なんだ」
「神格が下げられてるんだ。これ以上俺から何かするなんてことはないさ」
「分かってる、分かってるけど…!」
最近、歌仙はずっとこんな感じだ。美しく凛とした、正しさを背負う歌仙兼定と、過去の記憶や経験に振り回され自分を保てない歌仙兼定が、時折喧嘩をするように顔を出す。そして、そんな矛盾に苦しみ苛々している。