第3章 八雲
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その日の晩、事態は動いた。
夜中と言っていい時間帯。離れの結界に誰かが入る気配で、目が覚める。結界は入ってきたものを弾いたりはしないが、出入りを知らせる役目がある。
ただならぬ気配に、起き上がり悩んだ末、自分の周りの結界ははらずにおく。
穢れを感じる。どろどろとしていて、空気が重い。血の匂いが鼻につく。
気配を探るが、はっきりと掴めない。隠すのがうまいな。結界を張ってなかったら気づかなかったかもしれない。
悟らせることのないその様子から、暗殺に向いていることがわかる。経験がある者の動向だ。
契約があるから攻撃してくることは…ない、はずなんだけど。果たしてそれが全ての刀剣男士に効果があるのか、この効果というものは心理的にという意味でだ。
襖が、音を立てずに開く。
わずかに逸る心臓を、意識して呼吸することで落ち着かせる。開いた先、姿を確認する前に光る目とあって、
「っ!!!」
しまったと思った次の瞬間には相手は刀を振りかぶっていた。
確認できたのは小さな体躯。鋭い眼光。次に襲ったのは痛みだった。