第7章 晨星落落
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本丸に火が放たれたのは、それから数日後だった。
出火元は分からず、本丸にいた刀剣男士はすぐさま外へと避難した。ごうごうと燃える本丸を見て思うことは様々だった。
暗闇に浮かぶ炎。ぱちぱちと気の燃える音がする。火は勢いをまし、本丸を吞み込んでいく。
これでよかったのかもしれない。誰かが小さく呟いた。
「全員いるね?」
息を切らした歌仙が問う。刀剣男士は辺りを見回し、顔を見ながらその数を確認する。
「審神者は?」
気づいたのは鶴丸だった。その言葉に、あの人間の姿が見えないと今更気づく。他の刀剣も辺りを見渡すがこの場にはいないようだ。
「まさか、」
誰かが呟いた。
まさか、まだ、あの中に。
たまらず、動いたのは鶯丸だった。
「俺が行こう」
刀を腰に携えたまま、鶯丸は提案した。走り出そうとする鶯丸を誰かの手が掴んだ。燭台切光忠だった。彼は審神者を憎んでいるから、鶯丸の行動に納得がいかないのだろう。
「君がいく必要はない」
「何故止める」
「…犠牲を払ってまで、救う価値のあるものだと?」
僕には、そう思えない。声にならない言葉は、それでも彼の強い意志を宿した瞳から伝わってくる。
鶯丸はそんな燭台切の瞳と合わせ言った。
「犠牲になるつもりはないさ。救う価値があるかどうかは、救った後でも構わんだろう」
それに、と続ける。
「俺は存外、あの人間が好ましい。彼の優しさに、応えたいだけだ」
表情は優しく、柔らかかった。そんな鶯丸を見た燭台切の手から力が抜ける。
時間がない。そう言って鶯丸は燭台切を振り払い走って行った。