第2章 【孵】-へんたい-
「今日は開店が遅かったのね」
開店とほぼ同時にその女性客は姿を現した
最近頻繁に来るようになったお客さんの一人。
歳は、多分30代前半くらいかな?
「すみません、。僕の研修の所為で開店が遅れてしまいました」
僕・・・!?
いつの間にか黒いギャルソンエプロンを巻いたネウロがしれっと言ってのけた。
そのエプロン、バックヤードにしまってあったのにいつの間に・・・
「あら、新人さん?オーナーさん、やるじゃない!どこでこんないい男見つけたの~?」
(いえ、今さっき頼んでもないのにやってきたんです。なんならどうぞお持ち帰り下さい)
苦笑する私の心情を踏みつぶし、ネウロが女性客の注文を取る
「カプチーノですね。畏まりました。オーナー、お願いします」
ネウロがこちらへ振り向く。
にこやかに注文を取った顔から一転、
目を極限まで開き、瞳孔全開、
三日月のように弧を描く口元からは無数の牙を覗かせたおぞましい表情でこちらへ向かって来る
カプチーノを入れる手元が狂いそうだ。
出来上がった物をお盆に乗せ、ネウロが運んで行く
外面だけで見るとカッコいいなとふと思うが、本性が恐ろしすぎてその考えはすぐに消えた。
客にカプチーノを差し出しながらネウロは饒舌に喋りだす。
「路頭に迷っていた僕をこのオーナーが拾って下さったんです。まるで女神のような方ですよ、オーナーは。迷いや悩みをたちどころに解決してしまうんです。
ところで先程オーナーが感じると言っておりましたが、お客様は何かお悩みでもあるんでしょうか?良ければお伺いします。」
ちらっと目線をくれたネウロの顔にはハッキリと『チャンスだ』と書いてあった。