第1章 前編
「ちっ、違うって言ってるでしょ! 悟天こそ、いい加減ちゃんと長く続く彼女作ったら!?」
「僕の事はいいの! そっかぁ、ユメもそんな歳になったのかぁ~。いやぁ~、お兄ちゃんは嬉しい!」
「一つしか変わらないじゃない。しかも悟天の事“お兄ちゃん”なんて思ったことないし。むしろ弟よ、弟!!」
「うわ、ひっでぇ!」
大げさにショックを受けたふりをする悟天。
――こんなお調子者の悟天も、実は女子から人気がある。
ユメには理解出来なかったが、同級生からも人気があり、幼なじみと聞いて羨ましがられる事も珍しくなかった。
……そしてもうひとり、ユメには皆から羨ましがられる幼なじみがいる。
その人物とは――。
「あれ?」
悟天がふと前方を見つめた。
「やっぱそうだ! おーい、トランクスく~ん!!」
ドキッ……!!
その名を聞いた途端、ユメの心臓は跳ね上がる。
悟天の馬鹿でかい声に足を止めて振り返ったのは、ユメのもう一人の幼なじみ。
「なんだ、悟天か」
「うわっ! トランクス君まで“なんだ”とか言わないでよ~僕へこむなぁ……」
肩を落とす悟天を軽くあしらって、トランクスの青い瞳がこちらを向いた。
「ユメ、もう学校は慣れた?」
優しい笑顔で名前を呼ばれる。
……それだけで胸が一杯になる。
「うんっ」
ユメはなるべく平静を装い笑顔で頷く。
……さっきから胸の鼓動が治まらない。
トランクスは悟天よりも一つ年上でこの高校の3年生。
その整ったキレイな顔と、大会社の一人息子という将来性のおかげで、学校中の女子から注目視されている。
本人はそんなことにはお構いなしのいたってマイペース。
だがそこがまた人気の理由になっていたりする。
そんなトランクスに、いつからかユメは同じ幼なじみでも悟天とは違う感情を抱くようになっていた。
――そう、ユメはトランクスに恋をしていた。
しかし、まさか本人に言えるはずもなく……。
言って、もしダメだったらと思うと、怖くてたまらなかった。
それならば、他のコよりは近くにいる、この“幼なじみ”という関係でいたほうがいいのかもしれない。