第1章 前編
――でもやはり本人を目の前にすると、気持ちが溢れてしまって辛かった。
「ねぇ訊いてよ、トランクス君!」
早々に復活した悟天がまた大声を上げる。
「ん?」
「ユメってば好きなやつが出来たんだって!」
「わあああぁぁ~~!!」
慌てて大声を上げて悟天の口を塞ぐユメ。
しかしもう遅い。
悟天のバカ~! トランクスに言うなんて……もう最低っ!!
「ユメに……?」
トランクスは少し驚いたふうにユメを見下ろす。
「だ、だから違うって! 勝手に変なこと広めないでよバカぁ!!」
真っ赤な顔でユメは悟天に向けてバッグを振り回す。
「はは~! そんなんじゃ当たんないよ~♪」
笑いながら悟天はひょいひょいと避けてしまう。
もうホントサイアク!!
トランクスに変な誤解されたくないのに……!
と、
「どんなヤツ? ……同じクラスの奴か?」
後ろから、この場に似合わないマジメな声が降ってきた。
「え……?」
ユメが振り向くと、真剣な青い瞳とかち合った。
(トランクス……?)
その目はいつもの彼と違った。
少し……怖い。
「あれぇ? 珍しいね、トランクス君がそんなに突っ込むなんてさ」
その明るい声に視線が外れてホっと息をつく。
「いや、ちょっと気になって……」
トランクスが悟天に向って言う。
「やっぱアレだね! ほら僕らにとってユメ可愛い妹みたいなもんじゃない。なんか男が出来たとか聞くとさぁ、なんつーか、娘を嫁に出す父親の心境? そんな気分だよね!」
「――だ、誰が男が出来たよ! 違うって言ってんでしょ、バカ悟天!!」
バッグ攻撃を再開しながらも、今回ばかりはこの明るい幼なじみに感謝した。
――その後は、いつもと変わらない優しいトランクスで。
……なんだったんだろう。
さっき、一瞬だったけど、すごく気まずかった。