第1章 前編
「あ! ユメ~!!」
学校帰り、背後から掛かったその大きな声にユメはビクリと肩を震わせた。
ゆっくりと振り向いて、一気に肩を落とす。
「なんだ。悟天」
(だけか……)
心の中で付け加え、ユメは小さく息を吐いた。
「“なんだ”はないでしょ~。ユメも今帰り?」
横に並んだひとつ年上の幼なじみは、いつも通りの明るすぎる笑顔で訊いてくる。
今年この高校に入学したユメ。
ここに決めたのは、幼なじみが二人ともこの高校だったからだ。
そのうち一人が今2年生の悟天。
「そ。でも珍しいね、今日は最後までいたんだ。学校」
「抜けようとしたら捕まっちゃった。あは」
「あはじゃないよ。帰ったらチチさんにまた怒られるよ」
「いつもの事だからヘッチャラだよ~♪」
得意げに胸を張って言う悟天を見て、ユメはもう一度ため息をつく。
この幼なじみは何でいつもこんなに明るいのだろうか。
「何? どうしたの? ため息なんかついちゃって」
悟天が横から顔を覗き込んでくる。
普通の女の子だったらドキっとする距離。
しかしユメは全く気にしない。
「……別に」
目線も合わせずに言う。
すると、
「あ~! わかった!!」
急に大きな声を出して悟天がこちらを指差してきた。
「な、何よ」
「ユメ、さては恋煩いでしょ?」
ギクリと表情が強張る。
「お! その顔は図星ですねぇ! だれ誰!? 同じクラスのヤツ!?」
「う、うるさい! 違うわよ!!」
ユメが顔を真っ赤にして否定しても、悟天は聞いていない。更にしつこく訊いてくる。
「ねぇねぇ、教えてよ! 協力するからさ。案外僕の知ってるヤツだったりして!?」
ギクギクッ……!?
悟天は昔から変なところで鋭くて心臓に悪い。