第75章 君のその手で終わらせて〔真田弦一郎〕
* *
平日なら無理やり残業でもして気を紛らわすこともできたのだろうけれど、生憎の週末。
目覚ましをかけずに寝たいだけ眠ってみたものの、決して気分のいい目覚めではなかった。
嘘を吐いた後ろめたさのせいか、昨晩半分泣きながら眠りについたせいか、あるいはそのどちらもだろうかと、そんなことを思いながら顔を洗う。
まぶたが少し腫れぼったい鏡の中の自分は、悲しんでいるのか怒っているのか、あるいは諦めているのか拗ねているのか、どれともつかない、けれどどれにも当てはまるようなひどい表情をしていた。
惰性のように食べ始めた朝昼兼用のシリアルは味がほとんどしなくて、少し残してしまった。
スマホを見ると弦一郎から「大丈夫なのか」と連絡が入っていたけれど、返信をする勇気も気力も湧いてはこなくて放っておいた。
おもむろにテレビをつけて、ネット配信サービスのウィッシュリストに入っていた映画を物色する。
いつか観たいと思ってリストに追加したはずなのに、それがいつのことだったかまったく思い出せないものばかりで笑ってしまった。
考えたり迷ったりするエネルギーさえ使いたくなくて、先頭に表示されている映画から順に見ることに決めた。
カーテンを閉め切って照明を落とし、久しぶりにヘッドホンも引っ張り出す。
今日はどっぷり映画漬けにしよう、食欲があれば夜はデリバリーのピザでも取ってしまおうか。
* *
エンドロールはとうの昔に終わって、ディスプレイは映画の選択画面を表示しているのに、紹介文がまだ涙でぼやけてしまう。
普段ならひとしきり笑って元気をもらえるはずのラブコメ映画で、ぼろぼろと泣いてしまった。
最後に愛する人と結ばれる主人公が心の底から羨ましかった。
しかも一度流れ出した涙はなかなか止まらなくて、どうやら涙腺が緩みきってしまっているらしい。
パーカーの袖が湿ってきたのを感じて、頭の芯は案外冷静な自分に気がついた。
ずるずると鼻をすすりながら、こんなに泣いたのはいつぶりだろう、なんてぼんやりと思った。
現実は映画のように上手くいかないな、とも。