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短編集【庭球】

第73章 エンドロールをぶっとばせII〔ジャッカル桑原〕*


ぬるりと口内に滑り込んできた舌は、酒臭さや歯磨き粉の粉っぽさを気にする余裕なんてないくらいに熱い。
受け止めることに精一杯になっているうちに、いつの間にか両手で耳を覆われていて、絡みつく水音が頭の中で響いては反芻する。
脳みそが溶けてしまいそう。
そう思った瞬間、自分の中心が一気に潤ったのがわかった。

すっかり上がってしまった息の間に、銀糸がジャッカルの濡れた唇と自分のそれとを結んで、ぷつりと切れた。
口づけの深さを物語っているようで思わず視線を逸らすと、鏡の中の自分と目が合って、どっと羞恥が込み上げる。
まるでキスの一部始終を赤の他人に見られていたような気分だ。
蕩けた表情は、普段の自分とは別人だった。


「…耳まで真っ赤だな」


低い声が耳をかすめて、思わず声が漏れる。
ふ、と微かに笑ったジャッカルは体勢を変えて、私を背後から抱くように立った。
勢い私は正面から鏡に向き合う形になってしまう。
ラブホテル特有の大きな鏡は、私たち二人を映してもいっそ持て余してしまうほどだ。
気恥ずかしさに思わず顔を隠そうとした私の両手をやんわりと阻むと、ジャッカルは私のバスローブを少し肌蹴させて、胸元を鏡に晒した。


「なあ、これ、すげえそそる」


散りばめられたキスマークを一つずつ順にくすぐるように撫ぜる、爪を短く切りそろえた指。
細く吐き出す息がその手つきに呼応して、不規則に揺れる。

目の前に映し出されているのは確かに自分なのだけれど、あたかも別の誰かの行為を覗き見ているようで。
じっと眺めていていいような代物ではないと頭では思っているのに、目が離せない。
ジャッカルは「お前がつけてって言ったんだぜ、覚えてねえだろうけど」と苦笑まじりに言って、鏡越しに視線を絡めてきた。


「やっと一つになれたから、って」
「……なんか、すごい大胆だったんだね、私…」
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