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短編集【庭球】

第72章 エンドロールをぶっとばせI〔ジャッカル桑原〕


「…ごめん」
「いや、俺ももっと冷静になるべきだったな」


何度目かわからない私の謝罪に、ジャッカルは天井を見つめてそう言って、目を閉じた。


「どうりで都合よすぎると思ったんだよ」
「え?」
「ずっと気になってた女に告られるとかさ。こんなおいしすぎる話、あるわけねえよな」


告られる?
気になっていた女に?
「自分がいつも貧乏くじばっかなの、すっかり頭から抜けてたぜ」と独り言のように呟いたジャッカルは「ま、仕方ねえよな、忘れてくれ…ってもう忘れてるんだったか」と続けた。
自嘲の色が濃い、乾いた笑い声が尻すぼみに消えていくのを聞きながら、私は必死に思考を巡らせる。

文脈から考えて「気になっていた女」というのは私のことを指していると見て間違いないだろう。
つまり私は泥酔している間にジャッカルに告白していて、ジャッカルはそれを喜んでくれていたということで。
同じ気持ちだったことが素直に嬉しい反面、思いもよらなかったところから流れ弾が飛んできたような、にわかに信じがたいという思いもあるけれど、それもこれもすべて私の不用意さが招いたことなのは明白で。
果てには「覚えていない」なんて、せっかく寄せてくれていた好意を踏みにじるような仕打ちまで。


「……それ、覚えてはないけど嘘じゃない、よ」


今さらフォローしたところで遅いだろうか、という思いと、ほんの少しの期待と。
かすれたままの声はさっきよりも細く震えて、ひどく情けなかった。
ひゅ、とジャッカルが息を飲む音が聴こえる。
寝転がったままのスキンヘッドがほんの少しもたげられて、こちらを向いた。


「…なあ、それ」
「ジャッカルのこと好きなのは本当。信じてもらえないかもしれないけど」


がばっと慌てたように上体を起こしたジャッカルは、その機敏な動きとは裏腹に、一音一音を確かめるように「…マジ?」と言った。
その瞳に浮かんでいるのは、驚きと困惑の色だけではない気がする。
ひとさじの期待の色なんじゃないかと思ってしまうのは、都合がよすぎる解釈だろうか。
私と同じように、ジャッカルもまた期待してくれていたらいいと。
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