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短編集【庭球】

第71章 いのち短し 走れよ乙女〔忍足謙也〕


そんなの、だめなわけないのに。
「よろしくお願いします」と言うと、謙也くんは気の抜けたような声で「あかんわ、走っとるときより心臓打ってるわ」と苦笑した。


「…俺、死ぬんかな」


大丈夫、私の方がすごいから、と言おうとしたけれど、その言葉が形になる前に謙也くんから抱きしめられる。
ふわりと優しい腕に包まれながら胸に耳を寄せると、彼の心臓は確かに私と同じくらい早く打っていた。


「な、ヤバない?」


謙也くんをこうさせているのが他でもない私なのだと思うと嬉しい。
潜められた彼の声に合わせて「お互いさまだよ」と囁くと、彼は真っ赤な顔ではにかんだ。



心臓が一生のうちに打つ数は、十五億回だという。
こんなにどきどきしていたら、私も謙也くんもお互いきっと早逝だ。
けれどこんなにも幸せなら、それでもいいかもしれない。

止む気配のない拍動を感じながら、もう一度彼の胸に頬を寄せた。


fin





◎あとがき
お読みいただき、ありがとうございました!
久々の謙也くん、いかがでしたか。

謙也くんって生き急いでるよなあというところから着想を得て書き始めたお話でしたが、まったく筆が走らず、めちゃめちゃ苦労しました…
長い戦いだったんですが、読んでみると意外とあっさりしてて、私の苦労って一体?!と今は思っています。
タイトルはあまりにも有名な歌の一節をもじって。
少しでも楽しんでいただけたら嬉しいです。
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