第69章 失楽園に咲く花は〔幸村精市〕*
「リクエスト、には…応えてあげなくちゃ、ね」
かろうじて自分の身体を支えていた左脚が、精市によって持ち上げられた。
背中を壁についているとはいえ、身体が完全に宙に浮いて、反射的に精市の首にしがみつく。
ぐ、と両膝を抱え直されて、お尻を強く掴まれて叩かれて、深く激しく貫かれて。
互いに汗ばんだ肌が滑って、舌は時折噛まれながらもがむしゃらに絡められて、どこからどこまでが繋がっているのかが曖昧になってくる。
このまま全身で精市を感じていれば、頭の中まで溶け合って一つになれるだろうか。
「せえ、いち…っ」
「っ、なんだい?」
「すき…あい、して、る」
愛してる──濁ってきた意識の中、それだけは伝えておきたかった。
精市の柔らかな髪を撫でるつもりが、突き込まれる熱量に負けてくしゃりと掴んでしまっただけだったけれど。
「こんなに酷くされてるくせに、物好きとしか言いようがないなあ」と、意地悪な言葉とは裏腹に優しく笑った精市の顔を見ながら、私は意識を手放した。
精市が喜んでくれるのなら、行き着く先が楽園でなくても構わない。
* *
精市のベッドで目覚めるのは何度目だろう。
最初の頃は見慣れない天井に驚いたりもしたけれど、今ではそれもなくなった。
ただ、目覚めてすぐに「あ、生きてる」と思ったのは初めてだ。
いつもの何倍もの腰の痛みとともに。
「いった…」と顔を歪めて起き上がった私に、精市がマグカップを手渡してくれた。
あたたかいハーブティーは、カモミールの香り。
確か疲労回復に効果があるんだったっけ、と思いながら、ゆっくり時間をかけて飲み干す。
「あのね、精市」
もちろん告白は断ろうと思っているということ。
精市の名を出さなくていいような言い訳を考えているうちに竹田くんが離れていってしまって、断るタイミングを逸したこと。
そこまで話すと、じっと表情を変えずに聞いていた精市が口を開くのがわかった。
どんな言葉が落ちてくるのだろうと、内心身構える。