第1章 fall in love〔跡部景吾〕
外がさらに暗くなったぶん、窓ガラスに映る室内がはっきりとしてきた。
「ルールはわからないけど、強いんだなっていうのはよくわかるよ」
「へぇ、そうかよ」
「あと、音がすごい」
「アーン? 音?」
「ボールの音が、跡部くんのだけちょっと違うから」
ガラス越しに跡部くんと目が合った。
少し目を見開いて、驚いたような表情。
そしてすぐに、嬉しそうに笑った。
「よく見てんだな」
「…ありがとう」
「ちょっと来い」
跡部くんはそう言うと急に机から立ち上がって、反応が遅れた私の手をふわりと握った。
驚いて見上げると、跡部くんは図書室の扉を顎でしゃくって「行くぞ」と、今にも歩き出しそうなそぶりを見せる。
「ちょ、ちょっと待って」
宿題を片付けた机まで慌てて移動して、荷物をカバンに詰め込んだ。
「もういいか?」
「うん」
「行くぞ」
どこに行くのだろうと考えながら頷いて、歩き出した跡部くんの後を追う。
そして、荷物を片付けるために跡部くんの手をすり抜けてしまったことを、少しだけ後悔した。
本を持っていない方だったから、右手だ。
大きくて、指が長くて、少し筋張っていて、あの手でいつもラケットを持っているのかと思うと、不思議な気持ちになる。
扉のそばで立ち止まって電気を消す跡部くんに追いついて、私は扉を開ける。
消し終わると跡部くんは、何も言わずに私の手をまた取って、歩き出した。
あまりに自然だから身を任せてしまうけれど、考えてみるとすごいことのような気がして、握られた左手に意識が集中する。