第5章 きみへ
「………何を言っているんだ伊月。 君は今日は泊まり込みで研修だと言ったよね?」
あのクソ社長が俺達を見下ろしながら、そう言った。くそっ!殴っておけばよかった!しかし、伊月は淡々とした口調で答えた。
「私はあなたの部下ではありませんし、あなたに命令される筋合いもありません。それにそろそろ後藤さんの相手をして差し上げないと、寂しくて死んでしまいますから」
俺はウサギか!!と心の中でツッコんだが、どうやらその口調から復活したようだ。
「………組織の連中に君のことをバラしても?」
「なっ!?」
伊月が実験対象として目をつけているあの連中のことか!?こいつ、それで伊月を脅して…。くそっ!!それじゃあ、手も足も………
「構いません。別に痛くも痒くもありませんし。頂点がいない残党の集まりなんかになにをされようとね」
「なっ!?」
伊月の言葉に俺は首をかしげた。頂点がいない?あの研究は今でも続けられているんじゃないのか?
「もうすでにそれを構想した人物はその組織にはいないんですよ。要するに頭がもげるのがバレるのを恐れて、虚勢を張っているただの雑魚ってことです。さっ、帰りましょう」
頭が混乱してきたが、取り敢えずこの件は一件落着らしい。だが、俺はここで一つの疑問が浮かんだ。
「………じゃあ、そこまで分かってて……なんでお前はあいつの言いなりにかってたんだ?」
そう聞くと伊月はそっぽを向いた。
「……なんでなんでって、子供ですか?そんなのあなたには関係ないです」
「はぁ!? 関係ないことないだろ!お前が弁当つくらないせいで俺が部長や池田たちになんて言われたか……!!」
「そんなの知ったことじゃないですよ。そもそも後藤さんの弁当なんてついでですし。それに、大変なんですよねぇ。何せそのお腹ですし。色々考えて詰め込んであげているんですよ?当たり前だなんて思わないで欲しいですね」
「おまっ……あー!!そうかよ!!そうかよ!!だったらもう作らなくて結構だ!!」
……売り言葉に買い言葉。当たり前だと思ってないからいざ無かった時、あれほど焦ったというのに……俺は…!!
「嫌です。明日からまたきちんと作ってさしあげます。覚悟してください大豚さん」
伊月があまりにも綺麗に笑顔を見せるので、やはり今回も俺は何も言えなくなるのだった。