第3章 忘れないもの
「へぇー。
んじゃあお前なぁんにも覚えてないんだな。」
簡単に油屋の案内をされたあとさっそく仕事に取り掛かるあたしとリンさん
せっせと風呂釜を磨きながら話す
「うん、そうなの。
わかってるのは自分が人間で、この世界はあたしの知ってる世界とは違うってことだけ。」
ここは湯婆婆が経営する油屋
神様達が日頃の疲れを癒しに来るお湯屋らしぃ
「いつか思い出せたらさ、また元いた所へ帰れるといいな。」
「…思い、出せるかな…」
ふいに感じる不安や孤独に風呂釜を洗っていた手が止まってしまった
そんなあたしをリンさんは心配そうに見る
「大丈夫、それまでオレが面倒見てやるから。」
にっこり笑ったリンさんの笑顔に思わず目が潤む
ここの人達はなんて優しいのだろう
身寄りのないあたしを助けて居場所をくれて、
そして優しくしてくれて助けてくれた
「ありがとう。」
それしか言葉がない
「さ、あと少し頑張るぞ。
仕事はまだまだあるんだからな。」
--------
-----
まだ始まったばかりの油屋での生活
あたしを助けて仕事まで与えてくれた湯婆婆さんに恩返ししなくちゃ
見た目は少し怖かったけど、でもきっといい人に決まってる
そう信じていた…
しかし、いずれ知ることになるここへ来た本当の理由をまだこの時のあたしは知らない
何故疑わなかったのか
与えられる全ての優しさが
時に裏があることを…
まだこの時のあたしは何も知らない