第3章 忘れないもの
「あの…」
触れられた頬に手をやると、微かにハクの手の感触が残っていた
「あたし、あなたに何処かで会っているの?」
そんな気がする
だってこの優しい手を身体が覚えている気がしたから
ほんの一瞬、ハクが言葉を噛み締めるように口を閉ざした
でもまた優しい笑みに戻る
「、無理に思い出そうとしなくていい。
時間を必要とする事もあるのだから。
それに何かを思い出そうと無理すると身体に良くないよ。
だけどこれだけは覚えておいて?
一度あった事は忘れない、思い出せないだけでね。」
「……はい。」
優しい声、優しい手、、
何もかもわからなくなってしまった自分が恐ろしくて怖くて…
だけどハクの言葉で少し自分を取り戻せたような気がした
『一度あった事は忘れない。思い出せないだけ。』
あたしの家族はどんな人?
顔も声も覚えていない
もしかして…こんなわたしでも恋とかしてたのかな
友達は?
あたしは何故違う世界へ迷い込んだの?
一人ぼっち
誰も知らない
孤独
考えれば考えるほどあたしを恐怖が襲う
だけど
あの暖かいハクの手があたしに安心をくれた
不安も恐怖も消えないけれど前を向くしかないよね
「ハク…あたしみたいな見ず知らずの人間に優しくしてくれてありがとう。」
あなたがいるから頑張ろうと思えるの
あなたの優しい声と優しい手を
あたしは知っている気がするから