第7章 最初の演技とネコの店
『・・・・・・。』
「夜琉ちゃん?」
『えっ…あっ』
「だから…何?」
いつの間にかあたしは、過去の思い出に浸っていた
お母さんが死ぬ前日だったか、そんな話をしたことを・・・
悲しくなかったわけじゃない、辛くなかったわけじゃない
でも、あたしは2番だから。1番じゃないから
そうやって小学生ながら割り切っていた
今思えば、アレが最初の嘘で演技だったと思う
アレが最初に演じた《いい子》
それ以降は《いい子》という役が定着しすぎてなかなか舞台から降りられなくなっていた
だから、舞台の全く違うこの世界でだけ《いい子》じゃなくて《悪い子》を演じたくなったんだと思う
売りをやり出したのもそのころだ
きっとこれは反動だろう
ずっと1人でいい子を演じてきてしまったからその心の隙間に何か埋めるために・・・
『・・・・・・ですよ』
「ん?」
『今楽しいですもん。親居なくて清々してるしお金もらえるし。だから売りやってたんです。親なんてオシドリ夫婦気取って2人揃って逝ったんですから、悲しんだって仕方ないっすもん』
「・・・そっか」
思ってない・・・清々なんてしてない・・・
でもこの世界のあたしは、《悪い子》
だから親居なくても平気なふりをする
心の隙間を埋めるなんてセリフ、悪い子(今)のあたしには必要ないもん
『・・・及川さん、お腹すきました。まだですか?』
「もうすぐだよ!!ホント口も態度も悪い子だよね!!夜琉ちゃんは!!」
『あざ~っす』
「ほめてない!!!」
と、G〇-Rの中でまた喧嘩を始めた
「ねえ、夜琉ちゃんのお母さんの名前って何・・・?」
『えっ?天川朝沙ですけど?』
「そっか…そうだよね」
と、急に及川さんの雰囲気が変わった気がした
なんで母の名前を?って聞いても、何でもないってはぐらかされた。