第38章 ワガママな子
「ありがとう…夜琉ちゃん…。」
『グズッ…、…あたし…何もしてません…』
「ううん、君に出会えたことがよかったんだよ…。君のおかげで…」
及川が夜琉の頭から手を離すと、ゆっくり話しながら彼女から離れていく。
「俺ね、あの時からずっと君を探していたんだ。牛島を俺たち以上に辛い思いをさせて…そして白鳥沢をつぶしてやるって…。君のことは正直なんとも思っていなかったの…。
でも、君と初めて会った時…これで復讐できるなんて微塵も思わなかった。だって…君本当に紫乃さんにそっくりなんだもん。びっくりしちゃったよ。…殺さないとって思ってたのにできなかったの…だから、井闥山もトビオも使えるものは全部使ったのに…。」
及川は、歩きながら屋上の隅に立った。それは夜琉が落ちたところとはまた違う場所。
『…及川さん、そこ危ないですよ?』
「夜琉ちゃん…、俺…君にも紫乃さんにも最低のことしちゃったからね…だから、やり直すことなんてできないんだよ…」
『及川さん・・・?』
及川は、屋上の淵に立ち再び背を向けていた夜琉を見た。
及川は、少し夜琉から外れたところを見た。それは黒尾だった。何をするか分かった黒尾は、自分を支えている夜琉の肩をギュッと抱いた。
「夜琉ちゃん・・・ごめんね、ありがとう」
『及川さッ!!』
夜琉にそう告げると、そのまま空を仰いで背中から屋上の外に身を乗り出した。そこでようやく夜琉は及川が何をするつもりだったか理解した。でも、肩を黒尾に抱かれているせいで彼のもとに行くことができなかった
・・・すると、彼の名を呼ぶ彼女を横を強い風が通った気がした・・・