第25章 生きてほしい
黒尾さんのバイクは、夜の街を走り抜けてあのマンションにたどり着いた。
前はあたしを入り口に降ろして黒尾さんだけ駐輪場にバイクを置きに行ったけど、今日はあたしを降ろさず一緒に駐輪場に行った。黒尾さんがエンジンを切ってバイクを指定された場所に置いた。
「行くぞ」
そうやって聞いてきたけど、あたしの答えなんか聞かずにあたしの手を掴んで強引にマンション内に引っ張っていく
正直ちょっと手を引く力が強くて痛かったけど、あたしは何も言えなかった。いつもなら『痛いんですけど?』のくらい言えるのに・・・
「先に風呂入れ」
『…はい』
黒尾さんのおうちについてそのままリビングまでまっすぐだった。そこでやっと黒尾さんが手を離してくれたから
黒尾さんは、あたしに背を向けて着ていたスーツのジャケットを脱ぎ捨てた。そのままキッチンにある大きな冷蔵庫を開けた。あぁ、ビールか・・・
あたしは言われたままにお風呂に向おうとした
すると、あたしの目に入ってきたのは電話の横に置いてあったペン立て。
そんなのに普通は目に留まるはずないのに今日のあたしの目には留まった。なぜならそこに立てかけてある1つの文房具に惹かれたからだ。
あたしはキッチンにいる黒尾さんの姿を確認した。「なんか食うか?」なんて聞いてくるから『大丈夫です』とだけ答えた。黒尾さんは遅くまでお仕事だったみたいで軽く夜食をつくり始めていたからあたしはペン立てにあった文房具を1つこっそりとってお風呂場に向かった。