第16章 幸せな時間
「それじゃ、紫乃。そろそろでしょ」
「うん、じゃあいいかな」
そういうと、紫乃さんはトオルから夜琉を抱きかかえた。
紫乃さんは、ちょっと名残惜しそうに夜琉を抱きしめた。夜琉は、何も分かってないようで悲しそうな紫乃さんの髪を引っ張っていた
「・・・朝沙。この子…夜琉をお願いね。」
「もちろんよ、あんたこそ…、死ぬんじゃないよ」
天川さんの言葉に違和感を感じた
なんで・・・紫乃さんが・・・死ぬんだ?
「…君たち、もし大人になって夜琉に会うことがあったらまた仲良くしてあげてね」
天川さんが、夜琉を俺達にもう一度見せてくれた
トオルの前に出された夜琉はやっぱりキャッキャと笑っていた
「…またね、夜琉」
夜琉の小さな手にトオルは人差し指でそっと触れた
プニプニの手に触れながらトオルは泣きそうだった
でも、せいいっぱい笑顔を見せていた
「じゃあね、紫乃。せめて、この子が小学生になるのは見なさいよね!!」
「分かってるよ。またね」
と言って、紫乃さんは天川さんを見送った
夜琉を抱いた天川さんが家を出て行った
見送った紫乃さんの目には、涙が浮かんでいた
それが初めて見た紫乃さんの涙だった
「・・・幸せに、生きて」
そうやってつぶやいていたのは、俺達には聞こえなかった
でも、トオルには聞こえていたらしい