第13章 白鳥沢と青の野望
目の前に現れたのは、岩泉さんだった
あたしはその場から逃げようとしたけど、怖くてできなかった
この人に殺されるんじゃないかと…そう思って仕方なかった
「夜琉!!」
一言あたしを呼んで岩泉さんはあたしに近づいてきた
あたしは、後ずさりをしたけど高い塀に阻まれて逃げられなかった
それでも岩泉さんはどんどん近づいてくる
『…ッ!!』
あたしは思わず自分の手で顔を隠してギュッと目をつぶった
足音はどんどん大きくなっていく
そして、近づいてきた岩泉さんに身体ごと引き寄せられた
そうしたら、急に体が温かくなった
ゆっくり目を開けると目の前には岩泉さんが着ていた黒いジャケット
・・・あたし、岩泉さんに抱きしめられてる?
「夜琉…、よかった…ッ!!」
『…えっ、岩泉さん…?なんで…』
岩泉さんは…あたしが殺されかけたこと…知ってるよね?
だからよかったって言ったんだよね?
でも、なんで安心してるの?
「…まぁいい。とりあえず乗れ。家まで送る」
『は、はい…ぁ…ッ!!』
思わず岩泉さんの言葉に乗りかけたけど、それでもまだ信用できなかった
車に乗せられてしまえば、あとはどこに行くにも運転手である岩泉さんの思いのままだ
絶対に家に行ってくれるなんて保証がないから・・・
『…いいです』
「いいから乗れ。…別に及川に売るとかねえから」
あっ・・・分かってる上で言ってくれてるんだ
でも、一歩が踏み出せない
「…あぁもぉ!!いいから乗れ!!」
と、いつもの岩泉さんらしくあたしを強引に車の助手席に乗せた
今気づいたけどこの車、及川さんの愛車のアレだ・・・